5月29日~30日
5月29日
朝8:00、ガイドのノバークとジューロがホテルへ迎えに来る。
風邪もだいぶ良くなってきた。左ハンドル、右側走行にも慣れてきた私がハンドルを握り、プラクティスの川へと向かう。
ノバーク(左)とジューロ(右) Hotel Center
ノバークはフライタイヤ‐。水生昆虫にも精通している心優しき詩人タイプ。ご当地フライの完成度も高い。実はチームスロベニアのタイヤ‐でもあった。
ジューロは、釣りキチ少年がそのまま大人になったとしか言いようがない。彼のテクニックには、目から鱗が何枚も落ちた。日本のそれとは、レベルが違う。ルアーの大物釣り師でもある彼は、フライフィッシングという枠に囚われないハンティングを展開する。
因みに、彼らガイドはMさんがコーディネイトしてくれた。
ツーリストセンターでまずライセンスを購入する。ライセンス料は、一日35ユーロから50ユーロ。高い場所では、250ユーロするエリアもあるらしい。結構、お高めだ。
ノバークやジューロは、普段この高めのライセンスを買って釣りをしているのだろうか?後で彼らから聞いて分かったことだが、地元の釣り人は、200ユーロから300ユーロで2~3週間釣りが出来るライセンスをまず買うらしい。そして、時間を見つけて、河川清掃や放流や調査などのボランティア活動をする。その割合に応じて、追加で釣りが出来るライセンスを無料でもらえる、という事だった。つまり、一日ボランティアでリバーキーパーの仕事をしたら、一日無料で釣りが出来る権利が得られるというシステムのようだ。なるほど、合理的で利にかなったやり方だ。
ブレッドの街まで下りていき、川へ続く住宅地の細く曲がりくねった道を行く。すれ違う車に速度を落とし2又に出た所で、先導するノバークの車を見失う。どっちに行ったか分からない。ま・・、またもや置いて行かれたのか!?「カーブした先で待っててよ~!ノバ~~ク・・・」元来た道を戻り、少し広くなっている路肩で待っていると、ノロノロとノバーク車が戻って来た。「・・oh・・・oh・・・」またやっちまったぜ、的な申し訳なさそうな顔をする。どうも釣りに向かうとなると、テンションが上がりまくる性分らしい。(でも、ノバークの巻いたスロベニアンスカッドは完成度の大変高い逸品なのである)
SAVA BOHINJKA Practice
Photo by KUni Masuda Thank you!
ようやくSAVA BOHINJKAへ着くも、最初のポイントでは、各国コンペティターが既に釣りをしていた。ウエットフライ、ドライフライ、チェックニンフィング、フレンチスタイルと、その釣り方も様々だ。それにしても、フライフィッシング向きの美しい流れだ。
チェックニンフィングのフレンチスタイル(ややこしい?)
おそらく、南アフリカの若手のコンペティター。
彼とは、コンペティションでビートが隣どうしに何度かなった。
ここは混みすぎているということで、少し上流へ向かう。
着いた橋の掛かるポイントには、チームフランスのメンバーが2人、釣りの準備をしていた。
橋の上からは、何匹もの魚影が見える。中には60cmオーバーのレインボーもいた。まず私はそのレインボーを仕留めようと、橋の下流へ移動しアップクロスのチェックスタイルのトレース方法で狙う。上流へ行っていたノバークがそんな私を見つけ慌てて私の所へ戻って来て、「橋から下流はこのライセンスでは釣りは出来ない」と、言う。橋から下流はフーチョフーチョや大型のブラウンが放されていてライセンス料が違うとの事だった。後で聞いたら200ユーロもするらしい・・・(汗)。そこで私は橋の上流へ移動しダウンクロスでニンフを送り込む。ガッと当たりがあり、35cmほどのレインボーがヒット。
しかし、狙っているのはこの魚ではない。太陽光の反射でサイトは出来ない。ブラインドで、狙う魚の鼻先にニンフを送り込む。橋脚にぶつかる流れの上流奥へキャストすることがこの場所の最高のドリフトになる。ノバークは言う。「グッドプレゼンテーション!」橋脚の面を撫でるようにフォールしながらレッドホットニンフが沈下してく。数投目で、ひったくるような衝撃が走った。さっきのレインボーとは比較にならない強い魚信。橋の上から見たあいつだ。「うぉ!」私は声を上げながらフッキングを更に深く行う為に、瞬間的に後ずさりしてロッドを高く上げる。足を滑らせドスンと尻餅を突きながらも、更にロッドを後方へ振り上げラインテンションを強める。フライはバーブレスだ。しかも14番と小さい。この魚は何としても捕りたい!
何度かランディングに持ち込もうとしたが、魚のパワーは重く強い。
あまり無理をせず慎重にやり取りをし、約10分後にようやくランディング。62cmの丸々と太ったレインボーだった。(写真右奥には、チームフランスの姿が)
photo by Kasuya
(さりげなく自慢したいが為、写真も大きめに・・)
圧巻のグレイリングサイトフィッシング
次に狙ったのは対岸。水深も背丈以上あり立ち込めない。ここでの釣り方はサイトニンフィングだ。見える魚の鼻先に正確にフライを送り込むことがキモ。キラーバグの各色でレインボーを数匹キャッチする。こういうニンフィングは日本でもよくやっているが、そのまま通用出来た。上流はチームフランスがいるので、元の岸に戻り上流に移動する。
数百メーター上流は、膝ぐらいの瀬がず~と続いていた。流れは速い。一見どこがポイントなのか分からない。しかし、あちこちの小さいスポットにグレイリングが潜んでいる。よくよく観察しないとポイントをまったく絞り込めないが、タイトな打ち返しキャストで数センチ単位のプレゼンテーションを繰り返していく。こういう流れは、チェックニンフィングの独壇場だ。
軽快に釣り上がっていき、いい型のグレイリングを2匹ランディング。
単調な流れの瀬では、漠然とフライを流してもダメである。単調な流れの中に、小さな深みや巻き返し、流れがぶつかり合うスポットがある。そこを見極め、ピンポイントでフライを流していく。フライの重さも重要だ。
↑というのが私の中での最良の釣り方、狙い方だった。思惑通りにグレイリングも釣れた。しかし、直後にジューロの釣り方を目の当たりにして、その考えは吹き飛んだ。
私の隣に来たジューロは、すぐさまこう言った。
「あそこに1匹、その下流に2匹いる。見えるか?」と。
「え!どこ?」まったく見えない。
「あそこだよ」 ジューロは、ロッドティップを水面に向ける。
「・・・・」 見えない・・。「No・・・」水中を凝視する・・・・・。
見えない・・。速い流れだから太陽光の乱反射もあり、焦点もなかなか定まらない。速い流れの一点を凝視し続けると目がチカチカし、クラクラしてくる。見えない・・・。焦る・・。何故、ジューロにはそう簡単に見えるのか?思考回路が切れそうになる。サイトニンフィングは日本でも追求してきたつもりだった。が、その常識はいとも簡単に覆された。な・・何なんだ、こいつ・・。
一瞬水面が鏡状になり、グレイリングの尾びれがヒラッと動いたのがかすかに見えた。
「OK!I can see」魚の上流にニンフをキャストしようと、一瞬目を離すとまた見えない。魚はどこにいった?流れは速く水面は波立っている。相当に集中しないと、底石なのか魚なのかがまったく分からなくなる。
この速い流れでサイトニンフィングをするジューロ
ジューロの指し示す場所へ意地で何度もキャストを繰り返す。目が少しずつ慣れてきた。グレイリングがフライに反応して、頭をフラッと動かす瞬間が分かってきた。しかし、その瞬間をつかめない。
私はフライを手に持ち、一端リセットした。空を見上げ深呼吸をした。
狙っている魚はまだ定位している。底石と魚の区別がぼんやりと分かる。
落ち着いてキャストをする。今度はグレイリングが反応したのがはっきり分かった。ロッドを煽る。グッとのった。だが、引き寄せようと強くラインを張った瞬間、ブレイク。掛かりが浅かった。というより、私の合わせが早すぎたのだ。修業が足りん!
それにしてもジューロの魚を見つける能力は想像を絶するものだった。おそるべし!!
ジューロが魚の定位している場所を指し示してくれたから、ここでのサイトニンフィングは成立した。自分一人で、この場所のグレイリングを見つけろと言われても、まず無理だっただろう。ブラインドで探っていくしかなかったはずだ。魚を見つける桁違いの能力をまざまざと見せ付けられた。これぞ究極のサイトニンフィングである。
フーチョフーチョに挑む
少し遅めの昼食を摂り、私たちはまたポイントを変え釣りを開始。
ジューロの手招きに誘われるまま私は下流に移動する。ジューロは言う。「フーチョフーチョを狙うぞ!」フーチョフーチョとは、成魚になると軽くメーターオーバーになる魚。日本で言うところの「イトウ」と、遺伝子は同系列らしい。
激しい流れの対岸の深場にそいつはいる訳だから、使うフライも超ヘビー。
日本ではこんなに重いフライに出会ったことはない。もはやヘビールアーだが、それをバックが全く取れない足場からキャストしなければならない。
まさに、ハンティングだ!
バックの取れる開けた場所では、ベルジャンキャストで攻める。しかし、フライが超ヘビーな為、内心ロッドが折れても仕方ないと覚悟する。
流芯の大岩のえぐれに70cmほどのレインボーを発見。サイトニンフィングで攻める。バックには木がせり出し、まったくキャスティングスペースがない。ロールキャストするにも、フライが重すぎて上手くいかない。何度も試している内に、フライラインがある動きになると、ヘビーなフライでも的確に前に跳んでいくことに気付いた。(これが、後のリバウンドキャストに繋がる・・。)5番ロッドを最大限しならせキャスト。魚の3m上流にフライが入った。この位置にプレゼンできれば、フライは徐々に沈下し魚の鼻面にピンポイントで送り込める。後は魚の動きを捕らえるだけだ。フラッと70cm級のレインボーは魚体を浮かび上がらせ首を横に振った。今だ!とその瞬間を合わせ、ガッとフッキングに成功するもものすごい強烈な引きだ!5番ロッドがきしむ。あっという間に激流に乗られてしまい、体ごと持って行かれそうになる。
強引に引き寄せようとしても、魚のパワーと激流でラインが空気を切り裂きながら瞬く間に出て行く。リールは悲鳴を上げる。ディスクブレーキの調節も意味をなさないような強烈な走りである。「何としても取りたい!」ロッドエンドを下腹に押さえつけ腰で耐えながら、ロッドを瞬間的にぐっと上に持ち上げた。フッキングが浅いと判断した為に、フックを確実に魚のあごに食い込ませようとしたのだ。しかし・・、
次の瞬間スパ~ンとラインブレイク。のけぞって倒れそうになった。力なく水面を漂っているフライラインを手繰り寄せると、フライアイのところで、ティペットが切れていた。2Xだったが、結びが甘かったのかも知れない。フィッシングノットは奥が深い。でかい魚とのファイトはテクニックと読みが必要だ。
フーチョフーチョにはめぐり合わなかったが、スロベニアの底力を実感した時間だった。
因みにスティーブが釣ったフーチョフーチョ→
(HuchoHucho)、お見事!
それにしても、ジューロの移動は素早かった。ゴロゴロと大きな石や岩が底を作っている川の中を、草原を散歩でもしているかのように移動していく。こっちは必死で付いていく。恥ずかしながら何度も転んでしまった。ほぼびしょぬれ(汗)。体格が違うこともあるが、釣り以前にこういう体力をもっと意識しなければダメだなと、痛感する。
5月30日
今日はイタリアのガイドと、ちょっと離れた川での練習予定だ。チームイタリアの元メンバーであり、チェコのトップコンペティターに師事したこともある、ニンフィングに精通した凄腕らしい。
私の運転で高速をぶっ飛ばして待ち合わせ場所へ向かう。シェアハウスのような普通の民家にガイドがいるという事で、迷いながら辿り着くも、ガイドは不在・・・。
「すっぽかされた訳・・・?」
「Oh~!No~!イタリア~ノ!ドナイシタ~ノ?」
日本では考えられないことだが、仕方がない。ホテルに戻りキャスティング練習などをしながら時間を潰す。皆が持ってきた色々なロッドを試し振りできて有意義な時間を過ごせた。こういう予期せぬトラブルが海外では起こる。しかし動揺せず、すぐに次の策を考え行動に移し切り替えることが大切である。誰かを責めても時間とエネルギーの無駄なのである。
Hotel centerの子猫。私がベランダへ出ると、どこからともなく現れる。
今日はお帰りが早いようで・・・、なんて顔をしている。
写真奥の林の向こう側には美しい川が流れている。もちろん釣りもできる。そして、そのすぐ上流に湖がある。なんとも素敵なロケーションである。
ホテルのすぐ裏にあるボーヒニ湖のアウトレット。早朝の風景。完璧に美しかった。橋の上から覗くと、多くの魚影が確認できた。どの魚も優雅に美しく泳いでいた。スロベニアはどこにいっても、魚であふれていた。日本の渓魚よりも、ここの魚達の方がのびのびとしあわせそうだった。釣り人もさほど多くなく、ガツガツとしていない。
現地でのフライタイイングも欠かせない。
これもまた、楽しいひと時。